「2つのじあい」

新型コロナウイルス感染は、人の体・いのちをむしばむだけではなく、人の心までむしばむものとなりました。

「看護師のお子さんは通園させないで欲しい。」

我が身を捧げて、最前線でコロナ感染治療に奮闘されている看護師さんに告げられた冷酷なことば。

コロナ感染への恐怖から、医療従事者の生きがい、子どもたちの楽しみまで奪ってしまった。「コロナで困っている漁師を助けるために、海産物の購入に協力を。得々の特別低価格で、新鮮海産物 を届ける。」コロナの流行に便乗した電話による詐欺商法。代金引換(代引)で受け取った商品。空けたら中味はカスカス。問合せする電話はつながらず、所在地も架空住所。人の心をもてあそぶ犯罪が横行する。

今わたしたちは、2つの「じあい」の大切さを学んでいます。

1つは「自身を大切にする自愛(じあい)」であります。相手の健勝を願って「どうかご自愛ください」ということばを添えますね。コロナ禍において、感染予防のための接種、マスク、消毒、ディスタンス・・・自ら自分の身体を護り、大切にすることは当然必要であります。

実は「自愛経」というお経があります。そこには「自愛とは身(しん)・口(く)・意(い)の三業(さんごう)を清らかにし、三宝(さんぼう)に帰依すること」と示されています。身は身体、口は言語、意は心意を表します。三業(3つ行為)は身業(身体にかかわる行為)・口業(言語にかかわる行為)・意業(意思にかかわる行為)のことです。時として、その三業が悪い行い(罪をつくる)につながることがあります。

身においてつくる罪は殺生(せっしょう)(いのちを奪う)・偸盗(ちゅうとう)(盗み)・邪淫(じゃいん)(みだら・よこしま)。

口においてつくる罪妄語(もうご)(うそをつく)綺語(きご)(飾りことば)悪口(あっく)(わるぐち)両舌(りょうぜつ)(二枚舌)。

意においてつくる罪貪欲(とんよく)(欲深い)瞋恚(しんに)(怒りうらむ)愚痴(ぐち)(おろかさ)。悪い行い(罪をつくる)につながることのないように、身・口・意を常に清らかにすることが大切なのです。そのことが、自らを大切にし、自らを護ることにつながるのですね。

2つ目の「じあい」は慈愛です。「慈しみの愛」です。「慈しみ」とは、自分だけではなく、すべての人の苦しみを取り除く「抜(ばつ)苦(く)」、楽しみを与えてあげる「与(よ)楽(らく)」ことです。「慈悲」に通じるものなのです。

人が痛み苦しむ棘(とげ)をそっと優しく取り除いてあげる。たとえ親がひもじくとも、子どもには温かい食物を与えてあげたい。ここに慈悲の心があります。

「コロナ」によって、人としての優しさ、人と人の温もりのふれあいまで奪われてはなりません。これからは「ウィズコロナ」の世の中になりそうです。だからこそ、2つのじあい「自愛」・「慈愛」を大切にしていきたいものです。

(記 太光寺 八耳住職)

感謝の念は心を安定させ、ストレスを軽減する

住職のなんでも相談室やマインドフルネス講座をやっていて気づいたこと。それは、いつも、何かに「感謝」している人には、鬱病を見たことが無いという事実です。

いつも何かに感謝するためには、知識や経験、そしてちょっとした洞察力が必要。なぜならば、日常のいろいろな場面で、多くの感謝する対象に気づく、見つけるためには、知識、教養、経験による情報量と、その情報を元に、その奥にある真実、状態までを想像(洞察)することがポイントだからです。このような日常の中でのたくさんの気づきを実践している人たちは、いつも何かに感謝している状態となります。

「感謝」する事象にたくさん気がつくというのが、心(脳)にたいへん良い効果をもたらします。住職はヨガも教えていますが、ヨガで体をストレッチすることで、筋肉の凝りがほぐれ、体全体が軽くなります。いっぽう、心(脳や心臓)はどうやってほぐすのか?これが結果的に「感謝の念」なのです。

マインドフルネスの実践は、今、目の前のことに意識を集中させ、観察することから始まります。観察した結果は元情報となります。次に得られた情報から、瞑想によって、その奥にある事象までを想像(洞察)していくと、いろいろな事実が見えてきます。そして、その中の多くの事実が、自分を支えている、自分を生かしてくれていることに気づきます。例えば、自分の身近な隣人である両親、家族、友人。また飼っているペット、周囲の生き物。空気、水、太陽、地球、宇宙などの環境も同様。さらには人類が構築した社会インフラ(上下水道・電気通信・ガス・交通機関)、商店、そして国家、行政機関。またそこで働いているたくさんの人たちも。書き始めるときりがありません。

そして、あら不思議。「感謝の念」を心(脳)にたくさん与えると、心(脳)は、穏やかに安定しはじめ、顔もにっこり。穏やかな心(脳)は、さらに安定した心(脳)を育成し、新たな気づきを発見していく。さらに進むと、今まで見えなかったものが見えるようになってくる。住職は、このことを「魂の次元が上がる」と表現しています。神仏の世界に近づくという感覚でしょうか。

コンビニの店員さんに、不手際があったからと土下座させるなんて、とんでもない。深夜まで働いてくれる店員さんがいるから、深夜に買い物ができるわけ。コロナウィルスの感染を恐れて、宅配業者に「近寄るな」などの暴言を吐くのも、とんでもない。宅配業者がいないと困るでしょう。訪問看護の医師の対応が気に食わないと散弾銃で撃ち殺すなんて、とんでもない。訪問看護でどれだけの人が助かっていることか。

「感謝の念」は、ストレスを減らす心(脳)の栄養素。真の仏教徒やキリスト教の信者が、いつも笑顔でにこにこしているのは、いつも、何かに感謝しているから。そして、彼らの中には、鬱病は皆無といっていいでしょう。いつも「ありがとう、ありがとう」と言っているお爺さんやお婆さんたちは、長年の経験から魂の次元が高くなっており、神仏の世界に近づいているのかも。

(記 普陀山妙法寺 正禅住職)