マインドフルネスの勧め

マインドフルネスとは、今、目の前の事象だけに意識が向いている状態です。この状態を得られれば、様々な不安が消えて無くなり、穏やかな心の状態を得ることができます。

マインドフルネス(Mindfuness)という言葉は、アメリカで生まれた言葉ですが、実は、お釈迦様が最初に説かれた「初転法輪」の中の「八正道」の1つ「正念」のことです。

正念(しょうねん)とは、意識を集中させることです。とはいっても、なかなか意識を集中させることは難しいことです。意識を集中させるには、トレーニングが必要です。

「意識を集中させる」とは、どういうことなのか?例えば、あなたが大好きな趣味に没頭しているとき、他のことは頭によぎりませんね。これが集中の状態です。

逆に、「正念」の反対語は「失念」です。「失念」という言葉をどういう場面で使いますか?例えば、うっかり、物忘れをしたときや、聞いていたことを忘れたときなどに使いますね。「申し訳ありません、失念しておりました」というように。失念とは、「心ここにあらず」「気が散っている」「うわのそら」の状態です。意識があちこちに飛び落ち着いていない状態です。気が散っている状態というのは、心(脳)にとってストレスになりますので、失念の状態を長く継続していると、次第に心(脳)が疲れて凝り固まっていき、正しい判断ができなくなり、失敗は増え、最後はうつ病になってしまいます。

それでは、意識を集中させる「マインドフルネス」のトレーニングは、どのように行えばよいのでしょう?その方法はたくさんあります。例としてあげると、

・一心にお経を読む(だんだん集中してきます)
・坐る瞑想(静かな環境に身を置き、今、目の前の事象だけに意識を向けて観察する)
・歩く瞑想(足の裏に神経を集中させて歩く)
・食べる瞑想(食べ物に意識を集中させて味わいながら食べる)
・寝る瞑想(仰向けで手のひらを上にして寝ながら、五感を使って今を感じる)

トレーニング方法は、他にも多数ありますが、共通事項は「五感を鋭くして、今、目の前の事象を観察すること」です。これを一週間も続ければ、心(脳)は冷静な穏やかな状態になってくるのです。また、気が散っている状態を、集中の状態にすっと入っていけるようになってきます。まずはやってみましょうね。

トレーニングのポイントとして、最初に「呼吸と姿勢」を整えます。姿勢は、大地から生えた大木のように、背筋をまっすぐに。呼吸は、胸いっぱいに空気を入れてゆっくり吐き出し、これを数回、ゆっくりやる。次に、過去や未来のことを頭の中から消し去ることもポイントです。過去の嫌なことを思い出したり、未来の嫌なことを想像したり(妄想)すると気が散った状態に戻ってしまいます。過去や未来に意識が向かないようにするために、五感を鋭くして、自分自身の状態、周囲の状態を観察します。景色・香り・音・味・肌の感覚で今の状態を観察し感じることです。このようにすると、意識を「今」に集中させやすくなります。読経などは、声を出すことでより意識を集中させやすくなります。

お寺の環境(鐘の音・線香の香り・境内のお花や鳥の鳴き声・水の音・流れる風)は、結局、マインドフルネスになるための要素がたくさん詰まった場所ということですね。

人間は記憶力と想像力の高い生き物です。そのために気が散りやすいとも言えます。しかし、よく考えてごらんなさい。過去はすでに無いし、未来がどうなるかは決まっていない。あるのは、今、現在だけなのです。

(記 普陀山妙法寺 正禅住職)